先日、映画「ピアノマニア」(東京では2012年1月公開)の
試写を観る機会に恵まれた。
ピアノの老舗メーカー・スタインウエイ社を代表する
熟練調律師の現場を追ったドキュメンタリーだ。
「完璧なピアノの音」を求めて、
演奏者と音色づくりに丁々発止のやりとりが繰り広げられる。
誕生から300年余、サロンや室内で個人的に楽しまれていたピアノは、
多くの聴衆に音楽を届けるための楽器に発展した。
近代音楽の基礎が固められると、
演奏家にはさまざまな音の仕掛けが求められるようになった。
音の強弱、軟弱、ニュアンスなど、
音作りのための細かい指示が書きこまれた複雑なスコアがそれを語っている。
この映画は、一流の演奏家による≪フーガの技法≫(バッハ作曲)の録音をメインに、
それに携わるプロたちの姿をそのまま描いたもの。
主人公のシュテファン・クニュップファーが
老舗メーカーのピアノの音作りに心血を注ぐ様子を、
いくつかのエピソードを交えながら紹介している。
ラン・ラン、ブレンデル、ピエール=ロラン・エマールらの要求に応えられる音づくりとは…。
それは弱音ペダルの圧力であり、キーハンマーの太さであり、
フェルトの厚みであり、残響板の位置であり、埃の有無であり…。
ロマンティックな世界にありながら、まったく即物的なたたかいでもある。
デフォルメ気味のカメラワーク、完全演奏を聴かせないなど、
徹底してマニアックな構成となっている。
名曲好みのクラシックファンよりもメーカー勤務の理系の方にウケルかも。
私は結構楽しめたのだが。