<横浜国立大学グリークラブOB合唱団第12回定期演奏会>
会場は、3.11の震災後、今年4月に復活を遂げたミューザ川崎シンフォニーホール。
ステージ構成は5部。卒業年度で分けた3団体のグリークラブによる演奏である。
内訳は、主催者でもある総勢約70名のプラチナシニアによるOB合唱団(第1・2・5 St)、
現役大学グリークラブ(第3)、平成卒業OB合唱団(第4)というもの。
プログラムは、現代作曲家の無伴奏を基本とした宗教小品集(第1)、
テキストのモティーフを百人一首に求めた組曲「帆は風に鳴り」(第2)、
古今東西からスケールの大きさを感じさせる叙情詩を集めた「天景」より(第3)、
男声合唱の定番コンビ作品「北斗の海」より(第4)、最後はポピュラー曲集で構成された。
それぞれ特徴のあるステージだったが、第2から4までは「海」が題材。
最終ステージでは、総勢140人弱、およそ3世代にわたるスケールの大きな「音」に
ホールが包まれ、先ごろ亡くなった三善晃編による「夕焼小焼」では、
140人のユニゾンとピアノの協奏が圧巻を極めた。
アンコールは定番の「月ピエ」(「月光とピエロ」)より「ピエロ」。
男声合唱の魅力を一言で表すなら「音の重層性」だ。
全体の音域が低いため、倍音の鳴り方が混声や女声と比較にならない。
少人数でも和音がはまれば、3倍以上の響きが生まれる。
同じホールで同じ曲を演奏しても、倍音という素敵な“おまけ”が聴こえてくるのだ。
今回のコンサートでもその期待は裏切られることはなかった。
それは、共通テーマが海ということもあり“音の波”にあらわれた。
例えば「帆は風に鳴り」では、繊細でロマンティック、ときにはリズミカルな波に、
「天景」は無伴奏らしく無駄な要素をすべて取り去ったストイックな波に、
「北斗の海」は詩人・草野心平がかいた白描の劇的な波に。
歌う側とすれば、かなりハードルの高い難曲も入っている。
指揮者が若い故か、第1ステージは昨今の合唱コンクールで流行りの曲もあり、
無伴奏部分の後からピアノが入る曲では、聴く側も緊張を強いられる。
とかくそうした曲は「労多くして功少なし」なのだが。
それでも、“従順に”“健気に”タクトについていくOBグリーたち。
第5ステージではフェローも加わって解放感たっぷりに歌心を披露してくれた。
男声合唱の魅力をもう一つ。
メロディの歌い方がロマンティックでエレガントであること。
これも音域が低いためだろうか。メロディに対してある種の飢餓感でもあるのか。
琴線に触れるフレーズが登場したパートは「待ってました!」とばかりに喜び、
女声も真似のできないほど艶のある歌を紡ぎ出す。
第5ステージで音の質量がぐわんとアップしたのは言わずもがなだ。
締めは客席も一緒になっての全体合唱「見上げてごらん夜の星を」。
キーがヘ音域すれすれだったので、とてつもなく高いソプラノで失礼したが、
作品の背景が時代・ロケーションともにマッチしすぎていて、
胸が熱くなったのは自分だけではないだろう。
いくつもの波に洗われ、包まれて、生まれ変わったホールも歓喜を共にしたにちがいない。
<参考>
「帆は風に鳴り」(詩:宗左近/曲:林光)
「天景」(詩:大岡信・萩原朔太郎 他/曲:橋本剛)
「北斗の海」(詩:草野心平/曲:多田武彦)
「月光とピエロ」(詩:堀口大學/曲:清水脩)
「見上げてごらん夜の星を」(詩:永六輔/曲:中村八大)